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幻想絶佳:アール・デコと古典主義展



・会期:2015年1月17日(土)~4月7日(火)
・会場:東京都庭園美術館
・評者:山口 詩織

花曇りの午後、4月4日(土)に2014年度第2回見学会が実施されました。今回は東京都庭園美術館の「幻想絶佳:アール・デコと古典主義」展を訪れました。
参加者は全部で9名、そのうち1名がOB、4名が新入生でした。当初参加者が少なく開催すら危ぶまれましたが、数日前に行われた新入生オリエンテーションでの声掛けが功を奏して、幹事としては安堵いたしました。
手違いによりせっかくいただいていた招待券が手元になく、集合場所にて悲痛な面持ちでアナウンスをしていたところ、心優しいご婦人にチケットを2枚譲っていただく幸運に遇しました。さらに別の方からももう1枚。お陰様で新入生の皆さまにはとてもお得に観ていただくことが出来ました。

東京都庭園美術館は2014年11月26日に約3年にわたる大規模な改修工事を終了しました。筆者にとって、今回はリニューアルオープン以降初めての来館でした。本館の外観は、定規で引いたような直線的なアール・デコらしいフォルムで、改めて無駄のない美しさを感じさせました。そんな中で唯一玄関のアーチが曲線を成しており、柔らかい雰囲気を醸し出していました。入口の内側から外を見ると、アーチ形に切り取られた空にちょうど桜が入り込み、何とも風流な光景でした。

玄関ホールに足を踏み入れると、まずポール・ポワレがデザインした古代風のシュミーズ・ドレスがお出迎え。私事ですが筆者はポワレドレスのファンであり、コルセットを用いない女性の身体に優しいシンプルなシルエット、ふわりと軽そうな黒いネット地に施された繊細なビーズ刺繍に思わず見惚れてしまいました。
いよいよ朝香宮邸の館内へ。期間中の最後の週末ということで会場は多くの人で賑わっていました。一応順路は提示されているものの、1階から2階まで自由に行き来することが可能で、各々が邸宅を自由に鑑賞できるような構成となっていました。
ここでアール・デコと古典主義が台頭していた20世紀初頭の時代背景を概観しておきます。1910年前後、人々がアール・ヌーヴォーに食傷気味になっていた一方で、ドイツやオーストリアから新しいデザインの潮流が押し寄せ、フランスの装飾美術界では自らの伝統に立ち返った「新様式」を模索する動きが生まれました。その下敷きとなったのは、彫刻家ブールデルや画家のモーリス・ドニ、アンドレ・ドラン、そしてピカソらも新しい可能性を見いだした古典主義でした。
第一次世界大戦によって約10 年も実施が遅れたアール・デコ博覧会は、1925 年にようやく開かれ、アンリ・ラパンら装飾美術家協会による《フランス大使館》では、モダンに洗練された古典主義のアール・デコ様式として成熟した姿を現します。1933 年に建てられた朝香宮邸でも、内装デザインを担当したラパンは静謐さと祝祭性、優雅さと安らぎの両面を表現するためにこのスタイルを選択しました。
そこに身を置くと、まるで20世紀初頭のフランスまでタイムスリップしたかのような雰囲気が漂っており、展示されている家具、磁器、銀器、ガラス、ドレス、絵画、彫刻など全てがどこか浮世離れした美しさを放っていました。80点余りの展示作品の中でも、筆者としてはルネ・ラリックのガラス製の置時計《昼と夜》が印象的でした。文字盤に沿って、昼と夜を擬人化した男女が彫られているのですが、それぞれ浮き彫りと沈み彫りになっており、互いに伸ばした手が繋がることは決してありません。何とも甘美な仕掛けです。
また、数ある部屋の中で個人的に最も惹かれた空間は書庫でした。左右が書棚となっている狭い空間ながら、窓から柔らかな自然光が入り込むこと開放的な空間が演出されていました。さらに、四季折々で表情を変える庭園も臨むこともできます。資料が溢れかえる自室と比較して、憧れの念を禁じ得ませんでした。
そこまで大きな建物というわけではないので、さらっと観ればおそらく30~40分で終わってしまいます。筆者は一周だけでは飽き足らず、照明に注目するというテーマを自分なりに設定し、もう一度館内を観て回りました。光沢のある布で贅沢にドレープを作り四角く照明が囲われていたり、カラフルな六芒星が象られていたり...。照明のデザインまでラパンが手掛けたのかどうかは定かではありませんでしたが、朝香宮邸の雰囲気にマッチしていました。目を凝らせば至る所に美を見出すことが可能で、「神は細部に宿る」という言葉を思い出しながら、人それぞれの楽しみ方が無限大に見つけられる空間だと実感しました。

心ゆくまで本館を楽しんだ後に、改修を経て増築された新館ギャラリーへ移動。本館の甘美でロマンティックな雰囲気とは打って変わり、こちらはなんだか皮肉っぽくクールな印象。紹介されているのは両大戦間期に活躍したアカデミー出身者を中心とした画家・彫刻家たちでした。あまり見知った名前がないと感じたのは不勉強ゆえですが、この時期の美術家を紹介するのは日本で初めての試みのようでした。
彼らの冷たい色彩はマニエリスムを彷彿とさせましたが、マニエリスムが様式として成立した17世紀初頭において、ポントルモやロッソ・フィオレンティーノの表現が宗教改革や「ローマの略奪」の時代の精神的不安と解釈されたことを考えると、絵画が時代を映し出す鏡の一つであることを改めて思い知らされます。今回メインビジュアルとして用いられていたのは、ウジェーヌ・ロベール・プゲオンの《蛇》でしたが、彼の作品は他にも《アマゾン(幻想...)》や《イタリアの幻想》等数点出品されていました。タイトルからも推測できるように、プゲオンは現実離れした題材をよく扱っており、大戦間の不穏な空気からの逃避を連想させました。

16時半に再び美術館前で集合。懇親会の開始予定時間までまだ余裕があったので、目黒駅近くのカフェに少しの間滞在しました。その後、予約していたお店へ移動しました。海鮮料理が美味しいと評判のカジュアルなバルで、新入生とも懇親を深めることが出来ました。入店時間が早かったため、ハッピーアワーを利用できたこともラッキーでした。
最後に目黒川沿いを散策しながら、散り際の夜桜を楽しみ、春らしく会を締めくくることが出来ました。

今回で2014年度の見学会は無事終了となりました。お力添えくださった全ての皆さまに、この場を借りて深く御礼申し上げます。至らない点の多い幹事ではありましたが、ありがとうございました。

「幻想絶佳:アール・デコと古典主義」展はもう閉幕してしまいましたが、4月25日(土)よりいよいよ庭園の一部公開が始まっています。また「フランス国立ケ・ブランリ美術館所蔵 マスク展」も開幕しました。ぜひ趣ある東京都庭園美術館へ足をお運びください。

<参考文献>
『増補新装 カラー版 西洋美術史』高階秀爾監修、美術出版社、2002年
東京都庭園美術館編・発行「幻想絶佳:アール・デコと古典主義」展各室解説・参考地図(日本語版)、2015年1月16日


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