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[寸評]ロマノフ王朝展(下)

会場:東洋文庫ミュージアム
会期:2017年1月7日(土)〜4月9日(日)
評者:松枝佳奈
寸評:((上)からのつづき) 
 2階の企画展示で視覚的に印象深かったのは、デジタルブックとなった「プチャーチン来航図」と「蝦夷島奇観」、そしてガラスケース展示の大槻玄沢『環海異聞』である。普段なかなか実見することのできない作品をデジタルパネル上で自在に拡大して観察し、実物によく近づいてじっくりと眺められることはこの上ない体験である。丁寧に色鮮やかに描かれたロシア人やアイヌの人々の図からは、当時の日本人のロシアや蝦夷地、そしてそこに生きる人々への好奇心と畏怖がうかがえる。
 研究資料としての価値を認識させられたのは、桂川甫周訳『魯西亜誌』(1793年)とキュネル著『ロマノフ朝ロシアと極東の関係』(1914年、ウラジオストク刊)であった。前者のパネル解説には、「日本のロシア研究のパイオニア」とあり、日本の蘭学者と彼らによる世界地理書の研究が近世以降のロシア研究や対露観に与えた影響の大きさを再認識すべきことを促す、一考に値する見解である。後者は帝政末期の極東ロシアでロシア人東洋学者が北東アジアを一体としてとらえる地域研究の先駆けとして紹介されており、当時のロシアの東洋学者が北東アジア史研究や地域研究にも着手していた点は大きな発見であった。

 展示パネルやキャプションにはユーモアあふれるイラストやキャッチコピーが用いられ、比較的平易な説明が心がけられている。また声優の上坂すみれさんが会場の音声ガイドを担当するなど、若年者や漫画やアニメなどのポップカルチャーのファンを意識した構成となっており、ロシアの歴史に初めて触れる来館者にも分かりやすく、予備知識なしでも展示を十分に楽しめる。
 その一方で、通常、専門家や研究者の利用が多い東洋文庫であるからこそ、展示や展示品リスト、販売されている企画展のブックレットには、研究資料や書誌としても利用できるように、より細やかな配慮があるとなお良いかと思われる。たとえば、展示品の文献のキャプションには、ロシア語や英語、フランス語、ドイツ語、オランダ語などでの原語表記が求められるだろう。これにより、ただちに蔵書の検索や閲覧ができ、東洋文庫のより積極的な活用にもつながるのではないか。また東洋文庫所蔵のロシア関係文献は他にいかなるものが存在するのか、その規模はどの程度のものであるかなど、詳細なデータや統計資料などがあるとさらに書誌としての価値は高まるに違いない。

 本展はおそらく企画展開催の予算等が限られているなか、貴重かつ充実した蔵書を存分に活用して、下記の点を提示したきわめて良質なものである。第一に、ヨーロッパや日本においてロシアを研究することは、きわめて地理学的・民族学的な営為であり、その方法論はおおむね18世紀以降の東洋学と軌を一にしていたといえるだろう。この点において本展が今回東洋文庫で開催されたことは必然的であると思われる。第二に、日露関係を考察する際、日露戦争やロシア革命、第二次世界大戦期など20世紀以降のみに焦点を当てるのではなく、ロマノフ王朝の歴史を縦糸として、16世紀から20世紀初頭までを通覧することの重要性が浮き彫りとなった。特に18世紀から19世紀、そして20世紀初頭まで一つのまとまった時系列として見ることで、日露関係における過去と現在の連続性を改めて強く意識させられるのである。
 本展をきっかけとして帝政ロシア時代の日露関係、18世紀以来の日本のロシア研究などへの関心が日本国内でさらに高まっていくことを期待したい。


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