東大比較文学會
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『比較文學研究』第95号

『比較文學研究』第95号(特輯:文学的環境)が、2010年8月に
刊行されました。
定価は3,800円(税別)です。

以下は『比較文學研究』第95号の「編輯後記」です。


編輯後記
◎ 「文学的環境」という概念を問題の焦点として専門領域の異なる五氏
に投げかけ、それぞれの関心を通じて具体化していただくことで今回の
特輯は成った。個々の作品や作家が出現する前提をなす共有された場――
地理的な場のみならず人的関係や教養、制度、気運の共有でもありうる
場としての「文学的環境」が当方の念頭にあったイメージだったが、予想
を超える刺戟と示唆に富む特輯となった。
◎ 佐藤論文は幕末に出た一冊の漢詩集から、文人の人的な連係や共有
された教養を丹念に探り、さらにその「閑居」の環境が政治的な志を醸成
しえたさまを読み出す。加藤論文は、明治末の翻訳文学隆盛の機運の中に
現れた一人の人物がほぼ独力できりひらいた、まったく新しい文学的状況
を鮮やかに提示する。
◎ 澤入論文が掘り起こすのは、十九世紀前半のアメリカで、多彩な詩人
を貫きその活動を方向づけた、いわば心理的環境であり、そこに「民衆的
なるもの」への意識を析出する。新井論文は、十七世紀から現代に至る
イギリスに通底する「教養」と反「教養」の伝統を、その生き生きとした
引用の分析とともに描き出す。位相はまったく異なるが、ここにも「民
衆的なるもの」への意識がある。また森田論文は、一人の作家・批評家の
幅広い活動の背景をなし、彼自身が方向づけようとした文学的環境たる
十九世紀の都市ジュネーヴを多角的に浮かび上がらせる。
◎ 比較の視点が弱いとみえる論文もあるかもしれない。しかし、五編の
論文が全体として構成する多様さは「比較文学」ならではのものである。
小林信行氏の評伝が引く島田謹二先生の言にいう「綜合」の場を、会員
間の競作を通してもちうるところに本誌の意義をみる。
◎ 伊藤論文は、挿絵の図像にかかわる考証を中心として、埋もれかけた
一つの雑誌が同時代の文化的機運を照らし出す可能性を提起する。なお
本論文は、編輯委員による査読を経たものである。
◎ カナダから寄せられた榊敦子氏の巻頭言は、ACLAの活動の紹介を通じ
て、学会の、さらに学のあり方を問う。
◎ 今号はとくに会員の著書など書評欄の充実をはかった。博士論文審査
報告・傍聴記は、次号に掲載予定である。論文審査はこの七月にも三回
開かれたが、三時間に及ぶ熱のこもった公開審査の雰囲気は変わっていない。
◎ 七月、待望の故大澤吉博氏の論文集『言語のあいだを読む――日・英・
韓の比較文学』(思文閣出版)が刊行された。
(徳盛 誠)