東大比較文学會
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『比較文學研究』第98号

『比較文學研究』第98号(特輯:萩原朔太郎の風景)が、2013年10月に
刊行されました。
定価は3,800円(税別)です。

以下は『比較文學研究』第98号の「編輯後記」です。


編輯後記
◎ いつか『比較文學研究』で萩原朔太郎の特輯を組みたいという長年の思いがついにかたちになった。「萩原朔太郎の風景」と題し、執筆にあたってはあくまでテクストとしての朔太郎の詩と向き合い、それを丁寧に読み込む作業を通じて朔太郎詩の風景を立ち上げてほしいよいう依頼に、寄稿者一人一人が熱く応じて下さった。ここに並ぶ五つの風景は、朔太郎詩の世界の豊かさを提示すると同時に、それを織りなすことばが、同時代にはたらいていた多様な文化的、社会的、歴史的な力の交錯する中で、並々ならぬ切迫感をもって紡ぎ出されていったことを余すところなく示している。
◎ 二十年以上前に刊行された『萩原朔太郎論《詩》をひらく』は今以て朔太郎研究を志す者の必読書である。その著者坪井秀人氏は、ベンヤミンの「アウラ」論を駆使し、これを日本語の言文一致の問題にも接続させて、「殺人事件」や「酔精中毒者の死」の斬新な読みを提示してみせた。
◎ 分析対象とするテクストについては執筆者に一任し、『月に吠える』、「靑猫以後」、『氷島』からの作品が並んだ。実は『靑猫』の「夢にみる空室の庭の秘密」論も載る予定だったのだが、残念ながら今回は掲載に至らなかった。これはいつか必ず読ませていただきたいと思っている。
◎ 本特輯のもう一つの狙いは、詩的テクストの多様な読み方の可能性を探るところにあったのだが、「絵柄」としてのイメージ自体を解釈の対象とすることの陥穽を見事に言い当てた菅原論文は、示唆に富むものである。きめ細やかなテクスト分析を通して「まどろすの歌」の風景を歴史の縦軸と同時代性の横軸の交差するところに立体的に立ち上げた小川論文、近代の文化装置としての「遊園地」の成り立ちを検証し、朔太郎の「遊園地〔るなぱあく〕にて」の「やさしき憂愁」の染みわたる空間に読者を誘う榊論文、いずれも力作である。
◎ 金志映氏の「阿川弘之における原爆の主題と「アメリカ」」は、阿川弘之の作品分析にとどまらず、戦後日本の文化思潮と思想風土の形成における「アメリカ」の戦略的なかかわりを論じた骨太の論文である。厳正な査読を経て掲載が決まった。
◎ なお、本号の刊行が大幅に遅れたことは、ひとえに編輯担当の私の責任である。加えて、不手際が重なり、掲載が予定されていた論文が載せられなくなる事態も招いてしまった。度重なる不行き届きと約束不履行について、また刊行の遅れについて、関係者の方々と会員諸氏に、衷心よりお詫び申し上げる。(エリス 俊子)